戦士の休息。純粋な魂と愛する彼女へ贈るハーモニー

 

魂が喜ぶようなことを、探しはじめた。

 

これまでは、自分の枠を壊すための「何か」を、

あてもなく探していた。

 

もっと先へ進みたい。

まだ見ぬ自分を見てみたい。

 

だから、今目の前にあるコレがジャマなんだと。

だから、ぶち壊して、その先へ進むんだと。

 

激しい衝動を抑えられず、いろんな事に体当たりして

ここまで走ってきた。

 

しかし、ようやく気づいた。

 

これまでの私のイメージの世界は

終焉を迎えていた。

 

イメージの世界と

現実世界は違う。

 

現実世界はまるで

童話「北風と太陽」のようなものなのだ。

そして、最後に勝つのは太陽なのだ。

 


 

私はこれまで、旅人である自分自身に対し

冷たい強風を吹き付けて、着ているコートを吹き飛ばそうとしていた。

 

はやく全貌をあらわせ
本当の自分をさらけ出せ
まだ何か隠しているんだろう。

とばかりに。

 

しかし旅人である私は

冷たい風が吹きすさぶほどに

 

コートの前をあわせ、より強く握りしめ

「絶対に飛ばされるものか」と身を固くしていた。

 

そんなとき

私の中の太陽は、やれやれと言わんばかりにやってきた。

 

そして、吹きすさぶ風と入れ替えに
旅人である私に対して、あたたかな陽差しを降り注いだ。

 

旅人である私は、

最初はホッと肩をなでおろし

心地よく感じていたが

 

あまりの暑さに、耐えられなくなり

ついにコートを脱いだ。

 

しかし、そこで予想外のことが起きた。

私の中の北風と太陽すらも予測していなかった事態だ。

 

コートを脱いだ拍子に
私の中の純粋な魂が転がり出てきて

はじめて見る、外の世界の

あまりの眩しさに泣きだしたのだ。

 

 

私は、その子の泣き声におどろき

なんとかなだめようと必死になったが
どうしていいのかわからず
イライラしてきた。

 

しかし、苛立ちもつかのま

その子の絶望と驚愕は、まぎれもなく私自身のものであることを悟った。

 

 

この子はいったい、どれだけの年月

私の内側の、真っ暗闇の世界に閉じ込められていたのだろう。

 

そして、あまりの絶望に

私の目にはいつしか涙が溢れ

 

私の苛立ちまぎれのつぶやきは

嗚咽に変わっていた。

 

 

 

どれくらい泣いていたのだろうか・・・

頭がぼんやりしてきた。

 

泣き疲れて

ふとその子を見た。

 

その子は

私が泣いていたことに驚きつつも

 

淋しそうに悲しそうに

そして、怖れをたたえた不安そうな眼で、私を見ていた。

 

私は、その子を落ち着かせてあげたいと思った。

 

しかし、戦うことしか知らない私に何ができるのだ。

子守唄でも歌おうか・・・

 

しかし、慣れないもので

なかなかうまくいかない。

 

この子は私に心を開かない。

 

 

 

ついに私は、気づいた。
その子には母親が必要なんだと。

 

私は、いつも思い出さないようにしていた
私の中の女性性を思った。

 

彼女には、思い切り解き放たれてほしかったから

自由になってほしかったから

ずっと、距離を置いていた。

 

なぜかって

私は口を開けばすぐに
理屈ばかり並べ立てて

彼女を閉口させてしまうからだ。

 

私の理屈は、彼女の自由な表現を妨げ、私の主観で縛ってしまう。

それだは避けたかった。

 

彼女は、ロマンチストで
優しくて穏やかで
静けさを愛している。

すべてのものが調和した世界で
綺麗な花が咲く世界で
楽しげにステップを踏んでいる彼女を、邪魔したくなかった。

 

でも、この子には、彼女が必要なんだ。
どうしても、私だけでは無理だ。

 

そして、願わくば私は

彼女と、この子と、仲良くなりたい。

一緒に楽しく過ごしてみたい。

 

こんな感情は初めてだ・・・

 

しかし一体私に、何ができるだろう。

 

私は途方にくれながら探し回り
あるとき、ちいさな竪琴を見つけだした。

 

その音は、ポロ〜ンと心に響いて、深く染み入った。

 

そうだ、私はこの子と彼女のために音楽を奏でよう。
彼女とこの子が、楽しく踊れるように。

少しでも、私が彼女とこの子と仲良くなれるように。

 

私は、きれいなハーモニーを奏でるため
竪琴の弦を調律しはじめた。

 

あまりにひさしぶりの弦楽器だったが、触れているうちに

その昔、ギターの弦をいじったときのことを思い出していた。

 

そうだ、ひとつひとつの弦楽器は、こうして調律してキーを合わせるのだ。

そして、他の弦楽器も同じだ。

そして正確に調律するからこそ、ハーモニーが生まれる。

 

ひとつの楽器の弦の張り具合がただしく整えば

その楽器単体がハーモニーを奏でる準備が完成する。

 

しかし、ひとりで演奏するならまだしも

みんなでひとつの音楽を奏でるには

誰かが自分勝手な調律をしていたら、全体の調和、ハーモニーは損なわれる。

 

だから、みんなでやることには、ルールがあるのだ。

アンサンブル(合奏)とは、そういうものなのだ。

 

 

しかし、私たち人間は

幼い頃から他人に合わせるように
ルールに合わせるように教えられるが

どう頑張っても、みんなと調和できずに苦しむこともあれば

逆に、みんなと調和しているフリをして、影で苦しんでいたりする。

いったいなぜ、そんな苦しみがうまれるのだろうか。

竪琴の弦を調律しながら、私は考えた。

 

まだ答えは出ないが、

 

とにかく今は
この子と彼女の笑顔が見たい。

 

だから、今は理屈をこねたり

自分のなかの結論を求めるよりも

素敵な音色を奏でることに
集中してみようと思う。

 

 

剣れいや

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