月と時間【エッセイ】

まだ暗い明け方の東の空。

深い闇の中に、針のように繊細な金色の三日月。

 

その美しさにハッと息を呑み、我を忘れて見入ること数秒間。

 

窓ガラスと網戸越しではもったいない。

震えるほど寒い明け方の外気が流れ込んでくるのを覚悟し、窓を開けた。

 

凛とした空気の中に佇む三日月。

その弧の延長には、うっすらと暗い円が浮かび上がっていた。

 

もうすぐ新月。

そして、新月とは、月は存在しているが、太陽光を反射していない状況のことだ。

 

見えないけれど、ある。

しかしそれは、本当に「ある」と言えるのだろうか。

 

多分、あるのだろう。

だからそれが見えなくても、人は新月と呼ぶのだ。

 

実は皆、見えるものに目を奪われているフリをしながら

本当のところは、見えないものの価値を知っているのではないか、

そう感じた。

 

私と月の間には、何の隔たりもない空間が続き

宇宙空間を通って月の光が直接、私の網膜に届いている。

 

 

月が存在していて、私も存在している。

これが日常の奇跡なのだ。

 

 

 

 

 

剣れいや

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